2025/04/22
SENNHEISER HD490PROの話
SENNHEISER HD490PRO
以前からこのヘッドホンは素直な音だと思っていて、以前からそのうち欲しいと思っていた。
だがHD490 PRO無印はミキシングパッドは付くが、ヘッドパッドは付かない。デザインの統一性からヘッドパッドもミキシングヘッドパッドにしたい。でも無印は安売りするけど、PLUSは安売りしないので、価格差が1万5000円から2万円くらいある。なので3mのケーブルとケースとミキシングヘッドパッドの代金としては高いなと思っていた。ところがPLUSが最近安くなっていたので、「今でしょ!」と言うことで買うことにした。
このヘッドホンはSound Improverのテストに使おうと思っている。Fidelio X3やsignature PUREのように比較用に保管して使いもしないヘッドホンが増えても置き場に困るだけなので。実際困っている。Sound Improverのテストに使っているのを普段使いしてるだけで、別にこれらのヘッドホンが悪いわけではないけどね。
普段使いしているER4SRも歪が多くて音色の面では足りないと思うことが多いし、SRH1540ももうちょっと素直な音のが欲しいと思う場面が増えてきた。パッドも経年劣化で裂け落ちたので交換している。といっても交換したのは買ったときに付いてきたオマケのやつなのでこれも古いんだよね。交換したパッドもそんなに長く持たないだろう。というわけでぼちぼちテスト用の機材を更新したいとは思っているのだが、制作の関係上、機材が変わると以前との比較が難しくなるから時間的ロスが生じてしまう。下手したらひと月くらいはロスするだろう。なので重い腰がなかなか上がらなかったんですよね。とりあえず4000時間普通にエージングしてレビューしてから使おうと思います。
で、その音。エージングもしていない状態で聴いているのだが、このヘッドホンはHD600の上位互換だろう。音質に関してだけなら完全上位互換と言っても良い。。。完全上位互換は言い過ぎた。現状ではこのヘッドホンは空間の広がりがHD600に比べてもう一歩。
現状パッドも最初に付いているプロデュースィングパッドで聴いているのだが、音がやや丸いのを除けば素直な音で素性の良さを感じさせる音だ。ミキシングパッドにするともっとクッキリとした音になるだろう。世評通りなら、たぶん。まだ交換したことないけど。 エージングが全く進んでいないので解像度はそこまでじゃないけど、音色はかなり良く、そこがHD600との違いだ。HD600はバランスが良いだけで音楽的表現はそこまででなかったのだが、HD490 PROは音色の妥当性が高く、すっと受け入れられるような音を出す。周波数バランスで言うならHD600も似たような感じなのだが、それと音色の良し悪しは別。HD600は世評ではフラットでクリアで素直な音と言う評価だったが、個人的には色々足りてないと思うことが多かった。HD490 PROは現状エージングが進んだHD600よりも解像度は低いけど、音色が良いのでダメって感じにはならない。
まだエージングが進んでないことを加味して予想すると、だいたいHPT-700と互角かそれよりちょい上くらいのポテンシャルはありそうな感じ。うまくするとsignature PUREレベルの音は出せるかもしれない。なんにしてもこの素直さは他に代えられない良さがある。
音以外でHD490 PROの良いところ悪いところ書いておきましょう。
■良いところ
・HD600よりも側圧は弱め。HD600シリーズの側圧きつすぎと言う人はこっちのほうが良いだろう。
・スライダーロックはHD600ほど硬くないがそこそこ硬めで付け外しを繰り返してずれることはない。素晴らしい。これができているのは手持ちではHD600,HD650,K812しかない。
・スライダーにはメモリが刻んであり、さらに5コマごとに線が長く刻んであるので、どれくらい伸ばしているかすぐわかる。これも出来ていないメーカーが多くて、刻んであっても線の長さは全部一緒で左右同じ長さに揃えるには、コマを一つ一つ数えないといけないという。開発者は作ってて自分で使いにくいと思わないのかな?
・イヤパッド、ヘッドパッドは洗濯対応で簡単に交換できる。ただし、ユニット前のサランネット部分は交換部品がないようなのだが、これもいずれ出てくるのであろうか?
■悪いところ
・スイーベル機構が付いていて、片手でハウジング持つとカクンカクンと傾いて落ちる。そのため持つときはヘッドバンドの首の部分を持つ必要がある。。。誰得機能だよ?これ。どうしてもスイーベル付けたいのなら自動車のドアみたいに2段階にしてほしい。一定以上の角度に回すには力を入れないと回らないようにする感じ。
・ケーブル端子がmini XLRででかい。ハウジングが小さいのか肩に当たることはありませんが、邪魔くさいし見た目も野暮ったい。
・スライダーの調節機構にあまり余裕がない。大体SRH1540やK812と同程度。K812と比べたらひとメモリ分くらい余裕があるけど、短いことには違いはない。私はちょうどいいところに調整したら、それが全開だった。要試着。
とスイーベル機構とスライダー長さ以外は特に大きな欠点はない。ケーブルが片出しなのも気に入らないのだが、自作すれば両出しにもできるので、一応選択肢は与えられているという感じ。
HD490 PROをしばらく触ってみて感じたのは、スイーベル機構はゴミだということを除けば、道具としての完成度は極めて高いということ。HD600,HD650並みか、スイーベル機構がなければ、HD600,HD650よりもアップデートされている部分があるので、それ以上の完成度と言って良いでしょう。
HD600,HD650よりアップデートされている部分は
・ヘッドパッドもバリバリで簡単に交換できるようになった。
・スライダーにはメモリが刻んであり、もちろん一度セットすればHD600,650同様にズレたことはない。
もちろん、片出しケーブルや、ケーブルを左右どちらにも付け替えられること、スイーベル機構も人によってはメリットになるのだろうが、個人的にはないほうが良い機能だ。HD490 PROは両出しケーブルも付けられるようになっているのだが、ただ、ケーブルを両出しにしても、渡り線がくっついているという事実は無くせない。潔く両出し専用にして渡り線をなくしてしまった方が音質面では優位だと考えてしまう。あくまでPRO用製品なので機能を捨ててまで音質を追求するピュアオーディオ向けの製品ではないということなのだろうけど。 それからスイーベル機構は全く我慢できない。ハウジングを片手で持って保持することができないからね。メリットよりもデメリットの方が遥かにでかい。自動車のドアみたいに2段階にするとか何かしらの対策はしてほしいところ。
ではHD490 PROがHD600,650よりも劣っている部分は何だろうか?
端的に言うと部品のモジュール化という点ではHD600,650の方が優れている。工具無しでハウジング外せて、ユニットまで交換できるからね。HD490 PROはネジで止めてあるし、渡り線がある関係でHD600,650ほどには簡単に分解できない。
私はヘッドホンの進化の先には、部品のモジュール化、カスタマイズ化があると思っている。壊れたらそこだけ交換すればいいし、ヘッドバンドやイヤパッドが合わなければ、自分に合ったものに交換すれば良いわけです。音も変わっちゃうけど。逆に言うと音も自分に合うようカスタマイズできるとも言えます。
現状、そういったことができる最も最適なプラットフォームがHD600,650系のプラットフォームだと思っています。工具無しで分解できるので、部品の交換が容易だからです。例えば、側圧がきついとなったら、複数の大きさ、締め付け強さのヘッドバンドを用意して、交換すれば解決することができます。もっとも、その部品が存在しないので不可能ですが、メーカーがやろうと思えば、それができるプラットフォームだということです。HD600,650は20年以上前のヘッドホンですが、設計思想レベルで現代のヘッドホンは遅れていると言って良い。と言っても、そういったことが出来るポテンシャルがあると言っても、メーカーがバリエーション部品を用意してくれないことには何も意味がないのですが。。。
HD490 PROはヘッドバンドを簡単に交換できるほどのモジュール化はされていませんが、ある程度のモジュール化はされていて、ケーブル交換やイヤパッド、ヘッドパッドの交換は容易です。
特にイヤパッドをメーカーが2種類用意して交換できるようになっているのは、上であげたカスタマイズ化を具現化していると言えます。そういった意味では、HD490 PROの方が進化しているとも言えるでしょう。
ただし、音質的には頂点は一つだと思っているので、音質変える目的でのヘッドパッドの交換にはあまり肯定的ではありません。メーカーの人が「これで良し!」とした音で出してもらったらそれで良いと思っています。でも、耳の形状や頭の大きさが違うので、メーカーの人が「これで良し!」と出しても人によっては違った聴こえ方をするのかもしれません。そう考えると、イヤホンのイヤピースを変えるようにある程度ユーザーに投げたほうが良いのかもしれませんけどね。
カスタマイズ性ではヘッドバンドも簡単に交換できるHD600,650プラットフォームの方がポテンシャル自体はあると思いますが、結局部品がなければ意味がないし、HD490 PROは側圧がつよくないので、ヘッドバンドを交換したいという人も少ないと思われますが。個人的にはスイーベル機構のないバンドがあったらそれに交換したいですけど。もしくはヘッドバンドの首のところにハウジングの可動角を制限するクリップ部品なんかを取り付けられればいいのですが。
ただ、プラットフォームとしてのポテンシャルの話ではなく、ユーザーが現状出来ることだけで話をすると、HD490 PROの方が、イヤパッドの交換で音変えられるし、ヘッドパッドの交換も容易だし、スライダー部に刻みが入ってるし、側圧も緩めでより快適になっているし、HD600,650よりも道具として優れていると言って良いと思います。使っていて細部まで気を配って作られているのが分かる。ただし、耐久性だけはまだ分からない。信頼と実績ならHD600,650の方に分があるだろう。

ユニットが中央より下側にオフセットされています。ユニットが下にあったほうが空間把握がしやすくなるので、あえてそういう設計にしているのでしょう。

ヘッドバンドにはメモリが刻まれています。ちなみにこれで全開です。短い。

画像では見えにくいですが、ユニット裏には振動を受け止めるための梁状のアームが何本も通してあり、振動対策もされています。SRH1540もユニット裏に振動を受け止める支柱があり対策されているのですが、開放型でこういう対策をするのは珍しいですね。

ハウジングメッシュも特徴的で、内側に凹んでいます。これはなぜかわからないのですが、振動的に優位だったりするんでしょうか?HPT700も凹んでたし、何か意味があるんでしょうね。
■追記_2025/03/31
236時間鳴らしたけど、HD490 PROはめちゃくちゃ良いヘッドホンだね。。
上ではHD600の上位互換と書いたけど、エージングが進むと低音が良く出るようになって、低音を少し盛った感じのHD650やSRH1540のような音になった。HD600の上位互換と言うよりはHD650の上位互換と言ったほうが良いかもしれない。
今までHD600にしてもSignature PUREにしてもHPT-700にしても何かしら自分の感覚に合わないところを指摘して「やっぱりHD650のほうが良い!」と言ってきたのだが、たぶん、HD490 PROではそうならないだろう。。。
というのはHD490 PROで聴いても、鳴らしきった時のHD650で聴いているときのような感覚が得られるからだ。いや、それ以上の体験かもしれない。この感覚を具体的に説明するのは難しいのだが、端的には「HD650ええわー」と感じていた感覚がHD490 PROでも得られるのである。比較的似通った傾向だからと言うのはあるだろうが、似た傾向でもHD600では得られないし、他のヘッドホンでも得られないので、音の良し悪しに関する部分でそう感じているのだと思う。たぶん音色の妥当性とか、自分の感覚にフィットするかとか、それに伴う没入感が関係しているのだと思う。そしてその感覚がHD650と同等なのではなく、「あれ?もしかして、HD490 PROのほうが良い?」とすら思えてしまうのである。なんせエージング時間236時間時点で解像度はHD650とほぼ互角、音色や原音忠実性はHD650を上回っているのだから。
そうなってくると、「HD650最強!HD650は神ホン!みんなHD650を買え!」と言ってきたHD650信者の私もHD490 PROのすばらしさを認めざる得なくなる。HD490 PROはそれほどの傑作だ。ちなみにHD650教は他の宗教との掛け持ちOKなので何も問題ないw
と冗談はこれくらいにして、HD650好きなら気に入ると思うので聴いてみると良いでしょう。
ただし、すべてにおいてHD650を上回っているわけでなく、空間の広がりはHD650の方が広くゆったり聞ける感じだったと思う。空間が狭く窮屈な感じがするんだよね。エージングでマシになってきているので、エージングが進めば解消するかもしれない。
■追記_2025/04/09
451時間ほどエージングしているが、236時間時から音が濁ってしまって解像度も若干低下して、HD650味が減退したり、回復したりまだ安定しない。一時期は出せてるのだから出せないわけではないと思うのだが。。。音質的にはK812をちょい上回るくらいかな。236時間時よりちょっと音質落ちたかも。だが、空間の広がりに関しては広がりの狭さや窮屈感はかなり改善している。それでもまだHD650には及ばないかなと言う感じだけど、わざわざ欠点として指摘するほどではなくなった。
■追記_2025/04/22_769時間のシャッフル再生エージング
769時間ほどエージングしているが、空間の問題はほとんど解決したが、HD650味は減退したまま回復しないな。音質的には451時間時よりも濁りが取れたが、全体的な音質レベルはさして変わっていない。たぶん時間かかるやつだ。あと濁り濁り言ってるけど、K812で音が濁っているって感覚レベルの話だから一般的には十分クリアだと思う。
現状ではK812よりちょいいいくらいの音質で、最終的にはSignature PUREとどっこいかちょい上回るくらいの音質に落ち着くのではと思うのだが、HD650味が回復するかは分からない。。。現状では低音を盛っているとか細かな違いはあるが、全体的な印象はHD600に近いし、HD600の上位互換とはいえても、HD650の上位互換とは言えない感じ。
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